【過払い金】破産会社に対する求償権

成人
場合
造影

主文

原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
抗告手続の総費用は相手方の負担とする。

理由

抗告人の抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯は,次のとおりである。
(1) D株式会社(以下「破産会社」という。)は,平成14年11月12日,大阪地方裁判所(以下「破産裁判所」という。)において破産宣告を受け,破産管財人として抗告人が選任された。
(2) 相手方は,破産会社に対する債権を担保するため,破産会社所有の原々決定別紙物件目録記載1〜5の各不動産(以下「本件不動産」と総称する。)に第2順位の根抵当権の設定を受けていた。
相手方は,平成14年12月10日,破産裁判所に対し,本件不動産を別除権の目的とし,債権の種類を将来の求償権,債権額を6435万2075円とする破産債権届出書を提出した。
その後,相手方は,届出に係る債権の種類を求償権に,債権額を5865万5938円に変更する旨の破産債権変更上申書を提出した。
(3) 平成15年5月1日,本件不動産につき,第1順位の根抵当権者の申立てにより,競売開始決定がされた。
抗告人は,本件不動産を破産財団から放棄することとしたが,放棄するのに先立ち,同年6月26日付けの書面により,相手方を含む別除権者に対し,本件不動産については,任意売却に別除権者の協力が得られず,被担保債権の額がその時価を大幅に超過しているため,破産財団から放棄することとしたこと,本件の破産手続において配当に加入するためには,別除権の放棄が必要となることを通知した。
そして,同年7月8日,破産裁判所の許可を得て,本件不動産を破産財団から放棄した。
その際,抗告人は,本件不動産を破産会社の破産宣告当時の代表取締役であったE(以下「E」という。)に引き渡すことはしなかった。
(4) 抗告人は,平成15年8月27日,破産裁判所に最後配当の配当表を提出した。
この配当表には,相手方の前記債権は記載されていなかった。
抗告人は,同年9月2日に最後配当についての破産裁判所の許可を得た上で,同月25日に配当の公告をした。
また,破産裁判所は,同月4日,最後配当に関する除斥期間を同年10月10日までと定めた。
(5) 相手方は,Eに対し,平成15年10月5日到達の書面により,本件不動産を目的とする別除権を放棄する旨の意思表示をした。
また,そのころ,抗告人に対し,上記の意思表示をした旨の通知をした。
そして,相手方の前記根抵当権につき,同月9日受付による根抵当権抹消登記がされた。
2 本件は,相手方が,上記のとおり別除権を放棄したから,相手方の前記債権を本件の破産手続における配当に加えるべきであると主張して,抗告人作成の上記配当表に対する異議申立てをした事案である。
3 原審は,次のとおり判示して,相手方の異議申立てを却下した原々決定を取り消し,本件を原々審に差し戻す旨の決定をした。
株式会社の取締役は会社が破産宣告を受けるとその地位を失うから,破産財団から放棄された財産の管理処分に関する行為を会社又は第三者がしようとする場合には,商法417条2項の規定により,清算人を選任すべきものである。
ところが,本件においては,最後配当の除斥期間が配当の公告の日から15日間と定められており,別除権者が,公告後直ちに別除権の放棄を決断し,清算人の選任を申し立てたとしても,除斥期間内に別除権放棄の意思表示をすることが極めて困難であったという特別の事情が存在する。
なお,相手方は抗告人から本件不動産を破産財団から放棄する旨の通知を事前に受けているが,その段階で別除権を放棄するかどうかの最終判断をしなければならないものではなく,除斥期間の終期までにこれを行えば足りるという相手方の利益を軽視することはできない。
さらに,抗告人が,破産会社に清算人のいないまま本件不動産を破産財団から放棄し,Eにもその引渡しをしなかったことにより,これを管理すべき者が存在しないという異常な事態が生じている。
したがって,別除権の放棄を受けるという利益を直ちに享受し得ない状態は,破産会社にとって急迫の事情又はこれに類するものであると解することができる。
そうすると,本件においては,商法254条3項,民法654条の規定を類推適用し,Eに対する別除権放棄の意思表示を有効と解するのが相当である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき別除権者がその放棄の意思表示をすべき相手方は,破産者が株式会社である場合を含め,破産者である(最高裁平成11年(許)第40号同12年4月28日第二小法廷決定・裁判集民事198号193頁)。
また,株式会社が破産宣告を受けて解散した場合(商法404条1号,94条5号),破産宣告当時の代表取締役(以下「旧取締役」という。)は,商法417条1項本文の規定によって当然に清算人となるものではなく,会社財産についての管理処分権限を失うと解すべきものであって,その後に別除権の目的とされた財産が破産財団から放棄されたとしても,当該財産につき旧取締役が管理処分権限を有すると解すべき理由はない(最高裁昭和42年(オ)第124号同43年3月15日第二小法廷判決・民集22巻3号625頁参照)。
したがって,別除権放棄の意思表示を受領し,その抹消登記手続をすることなどの管理処分行為は,商法417条1項ただし書の規定による清算人又は同条2項の規定によって選任される清算人により行われるべきものである。
そうすると,【要旨】破産者が株式会社である場合において,破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき,別除権者が旧取締役に対してした別除権放棄の意思表示は,これを有効とみるべき特段の事情の存しない限り,無効と解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,最後配当の公告から除斥期間の末日までの期間は15日間であるが,この期間は破産法273条の定める範囲内のものであるから,これをもって上記特段の事情が存するということはできず,また,前記事実関係に照らすと,他に特段の事情が存することもうかがわれない。
したがって,破産会社の財産についての管理処分権限を有しないEに対する相手方の別除権放棄の意思表示は無効と解されるから,相手方の前記債権を本件の破産手続における配当に加えることはできないというべきである。
そして,このように解しても,相手方は,本件不動産を破産財団から放棄する旨の通知をあらかじめ抗告人から受けており,抗告人が本件不動産を放棄する前に抗告人に対して別除権放棄の意思表示をしたり,放棄がされた後に商法417条2項の規定により清算人の選任を請求し,その清算人に対して上記の意思表示をしたりする機会を与えられているのであるから,相手方の利益が不当に害されるということはできない。
5 以上によれば,原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原決定は破棄を免れない。
論旨は理由がある。
そして,相手方の異議申立てを却下した原々決定は正当であるから,これに対する相手方の抗告を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

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